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原発事故が起きた直後、
放射線取扱主任者の資格を取得し
放射能測定器を買い、測定する部屋を
専用に改装し、全国の農家のための
放射能測定業務を始めた。

当時放射能測定は一件2〜3万円もかかっていて
これでは心配でもお金がかかり過ぎて
想定できない。
みんな自分の農地や作物が心配だろうな。
赤字覚悟でうちは一件5000円で始めた。

測定器をはじめ諸々で約400万円ほど。
お金がなかったから借金した。
儲けるつもりはない。

まず自分のところを測定してみる。
うちのお米や農地から汚染が見つかったら
潔く農業をやめようと決めていた。

当時はそんな低価格で測定してくれる
ところはない。
広告などはできないし、ほぼ口コミだった
けど北海道から沖縄まで全国の農家から
土や農作物の測定以来が毎日送られてきた。
忙しい農作業の合間を見つけては連日連夜
測定しまくった。
話を聞きつけドイツ国営放送局が
こんな山の中まで取材にきたこともあった。

何百件も依頼が来て最初に投資した額は
回収できた。
自分の人件費は出てないし、少なからず
測定で被爆したに違いないけれど。
よく行動に移せたと当時の自分を
褒めてあげたい。

お陰で私の頭の中には放射能汚染が
どの地域からどの辺りまで広がってるのか
普通の人では知ることのない地図がある。
どんな作物が汚染の影響を受けているのか
報道との違いも知ることになった。

土も農作物も樹木も魚も貝も灰も水も
あらゆるものを測った。
そんな生の情報だけど、依頼者に迷惑が
かかるからその結果は死ぬまで言えない。

今は誰も放射能汚染を気にしてる人はいない。
情報が出たとしたら「それは風評です」と
揉み消される。

風評。風評被害。

この単語を口にすれば、
放射能汚染は途端にゼロになる不思議な言葉。
議論することも憚られる、一見思慮深く
便利で危険な言葉。

みんな忘れちゃってるだろうな。
私は寝ないで放射能測定してたから
一日も忘れてない。