理想と現実

最近は農業をこれからやってみたい、
または農業やり始めの方と
出会う機会に恵まれている。

どんな業種も大変だけど、
農業も負けず劣らず厳しい。
私が農業を始めた28年前よりも経営環境は
よりそしてかなり厳しくなってる。

28年前は食糧管理法が生きてて
今では不思議な話だけど、自分で作った
お米を自分で直接販売できなかった。
「それはおかしい!」と自分で売るお米は
違法、当時は「ヤミ米」という不名誉な名前で
呼ばれていた。

だから日本中の米農家はずっとお米の
直接販売の経験がなかった。
そこに都会から移住して来た私。
素人で参入した私でも「販売」に関しては
先輩農家と同じ土俵でスタートすることが
できた。
いや、都会の生活が長く
多くの人と繋がりがあった自分の方が
「販売」に関しては先輩農家より
明らかに有利だったのだと思う。
今では自分で自分の米を売るのは当たり前、
そしてお米は飽和状態になって久しい。

あれから28年。
世間のお米の価格は半分に下がった。
農機具の価格は倍〜数倍に上がった。
そして、輸入農産物による価格低迷、
原価高騰、米に限らずおよその農産物の
経営環境は益々悪くなってる。

定年や脱サラしてこれから農業を
始める人は間違いなく茨の道になると
覚悟した方がいい。
ハイリスクローリターンならまだいいけれど
ハイリスクノーリターンの可能性が高い。

夢と現実のギャップ。

農業はとかく牧歌的なイメージ、自然と生きる
イメージを持たれやすいけれど、これまで
新規就農者の離婚や離散、廃業、脱落を
たくさん見聞きしてきた。
始める前の人に多額な初期投資、
ノウハウのなさ、経営の難しさ、
体力と実力のなさを想像してみて!
と言っても無理がある。

参入した当時私は28歳。
若さに任せてがむしゃらになんとか
ここまでやって来れた。

でもそれは丁度、道の駅や直売所が
ポコポコできていき、
インターネットが普及し、
(インターネットと言う言葉がなかった)
スマホになって(ガラケーもなかった)
米販売の自由化(闇米だった)
ふるさと納税の始まり、
共済保険の充実などなど
さまざまな時代的な環境が整い
後押ししてくれたことと大いに関係がある。
それが今やインターネットも直売所も
ふるさと納税も楽天もAmazonも飽和状態。

今から始める人は余程の得意技があったり
確固たる経営戦略、そして何より体力に
経営やコミュニケーション能力がなければ
参入しない方がいい。

肩書きがある会社員はよく勘違いするけど
守ってくれる会社や部下がいなければ、
野に一人放たれた時、ふつうの会社員は
残念ながら赤ちゃん並みの無能に近い。
さらに経営能力なんてない。
(あればとっくに自分で事業を始めてる)

農業はイメージとは大違いで、
大きな落とし穴がいくつも開いてる。
誰もが人間らしく生きられる「聖域」
でもない。
聖域に辿り着く前に討ち死にしちゃう(泣)

「晴耕雨読」は趣味世界にはある。
「なりわい」は農業に限らずどんな業種でも
大変だし厳しい。
「農業ならなんとかなる」はずがない。
他の業種と比べてみても、自然相手という
一部分だけでもより厳しく難しくその人の
実力が大きく問われる。
それなら、自分で経営する道を一旦脇に置いて
農業法人に就職する方がはるかにいい。

農業と言う言葉がゆるさを感じさせるのか。
「農業ならできる」と言う誤解は農業の
ヒエラルキーの低さから来るものなのか?
例えばラーメン屋さんを開業しようとすれば
絶対に原価や人件費、光熱費ぐらいは
みんな計算するはずなのに、農業に参入
しようとする人は、なぜかそれを避けて
計算しようとしないことに心底驚く。

深い覚悟がないなら、理想しか見えてないなら
やめといた方がいいのは他の業種に参入する
のと全く一緒だと思う。

…と、28年前の自分に言ってあげたい。
いや、、今に続く始まり28歳の私は
農事組合法人福地ハイランズなるところに
「就職」したんだった。
若かったけどそれなりにリスクを考えて
独立じゃなく就職を選んでた。偉いw

蓋を開けたら、福地ハイランズには
私一人しかいなくて何も知らないのに
農作業も経営も意図せず始まっていた。
「おい、もっとリサーチしとけよ。」
と28年前の自分に言ってあげたい。