バンクバンレッスン

28年前田舎に引っ越す時に抵抗があったのは
もう気軽に演劇が観れなくなることだった。
若い時にはそれくらい小劇団を沢山観てた。
最もお気に入りの一つに劇団「ショーマ」
もう数年前に解散してなくなって
しまったけど。
このシナリオは時々思い出しては
もう10回以上は読み返してる。

作演出の高橋いさをさんの脚本は
舞台がリアルなのか演劇なのか
現実なのか虚構なのか頭が混乱して
グッと引き込まれる特徴があった。

バンクバンレッスン。
高校演劇でも演じられるその筋では
有名なシナリオは銀行強盗モノ。

銀行強盗に襲われるという訓練を
重ねていくうちに銀行員も強盗役も
熱が入りよりホンモノぽく、臨場感ある
リアルな銀行強盗事件に仕上がっていく
と言うストーリー。

緊張感のない訓練1回目、
緊張感を改善した2回目の訓練の後、
3回目の訓練はさながら迫真の銀行強盗劇になって行く。

訓練だよね?
あれ?
ホンモノ?
いや訓練だったよね?
あれ本物の犯人?

銀行員が犯人に撃たれて死ぬ。
あれ?
訓練だよね?
銀行はパトカーと多くの警官に取り囲まれる。
犯人のお母さんが息子を説得に来る。
あれ?
犯人が銀行員の逆襲に遭い死ぬ。
あれれ?
死んじゃうって、、これ、、訓練だよね?
いつの間にかホンモノ?
いや、そんなはずはない。

第一これ演劇だから元々虚構の世界だし。

あれ、最後はみんな死んじゃって
支店長だけが生き残った。
支店長「訓練終わり!」って宣言しても
みんな死んじゃって倒れたまま。
揺すっても叫んでもほんとに死んでて
動かない。

「おい、みんな、起きてくれよ!これ訓練だろ!嘘だろ!」と支店長はパニックになって
それでもみんなは死んでて起き上がらない。

とうとう最後たった一人生き残った支店長
「おい!嘘だろ!訓練だろう?
嘘だろ!起きてくれよ!」
パニックの極限に達した支店長は
落ちてたピストルで自らの頭を打ち抜き死ぬ。

ピストルって言っても自分の人差し指と親指。
だから嘘。
なのにバーン!って音が出て(銃声も本人の声)
最後は支店長も全員舞台の上で死んじゃう。

観客はしばらく全員倒れて誰も動かず
音もしない静止した舞台を見続ける。
あれれ?
指のピストルで???
でも誰も動かない。
ほんとに死んじゃってる。
いやいや、そんなはずないし。
あれれ?あれれ?

観客全員が息を呑み、静止した舞台を
見続け頭の中を現実か虚構かと
十二分に混乱させてから。

舞台の上で死体になって横たわってる
役者たちが「フフフ」と小さく笑い始めて
やがて大きく「ワハハ」と笑いながら
全員が立ち上がる(生き返る)。

あー、そうだよね、
これ演劇だし、訓練だよね。
死んでなかった。
観客ほっとする。

銀行員や犯人役たち
「今回の訓練はすごく迫真に迫ってましたね」
「もう一度この訓練やりましょう!」
「今度はもっともっとリアルにできそうな気がします」
「今度は撃たれたときにはもっと派手にひっくり返って〜」
などとお互いの訓練での演技を褒め合う。

支店長
「みなさんだいぶ上手になられましたね。
これぞ訓練!
これなら本物の銀行強盗事件そっくりです!」
「それではもう一回やってみましょう。
みなさん、訓練にはリアリティーが大事です。あまりオーバーアクションになりすぎないように注意してください!」

「それでは犯人役の方、外からもう一回
押し入って来てください!」
「任せとけ!もっと本当の犯人に見えるように凄んでやる!」
「訓練よーい!はじめ!」

そこで役者全員の動きが止まり、
一瞬照明全開
音楽が大きくなるにつれて
照明はフェードアウト。

舞台暗いまましばし大音量の音楽。
照明が点いた時には
舞台上で役者さんが横横一列。