我が青春のシアターグリーン

東京は南池袋公園近くある劇場シアターグリーン。
今は綺麗なビルになってるけど
立て替えられる前、そこはお寺の倉庫を改造した
アングラ劇団のための小さな劇場だった。

受験で上京した時、雑誌「ぴあ」を初めて買って
この劇場を訪ねた時のことはよく覚えてる。
その夜は記録的大雪でサンシャイン60ビルの
上半身は黒い雪雲の中で見えなかった。

田舎の高校生がドキドキしながら初めて観た
のは劇団碧亭の「マンハッタンで鯨」という
アングラ演劇だった。
「こんな世界があったのか!!!!!!」
あまりにも強烈な演劇に背後からバットで
殴られたような衝撃だった。

以後、大学生になった私は時間さえあれば
横浜から池袋まで片道2時間もかかるのに一人
シアターグリーンに何十回も通い、
どれほどたくさんの劇団を観ただろう。
果ては観劇に飽き足らず、
とうとう「飯島組」と言う
小さな劇団の裏方をすることになる。

我が青春のシアターグリーン。
寺の倉庫だったからか小劇団の間では
幽霊が出ると密かに有名だった。

定員は150人くらいだったか、
舞台と客席の段差は僅か10cmほど
演者の汗や唾が客席まで容赦なく飛び散ってた。
客はそこにすし詰めに座らされた。

客が多い時前半分の板席では
「みなさんお尻をせーので10cm右に
動かしてください!」と掛け声を合わせて
みんなでお尻を「セーノ、ヨイショ!」
一人でもお客さんが座れるように協力したものだ。
逆に劇団員10人なのに観客は3人しかいない
なんてことも時々あったな。

公演前のガヤガヤしたすし詰めの観客席、
やがてBGMの音が徐々に大きくなってきて
それと共に客席は静かになっていく。
照明は徐々にフェードアウト。
そしてBGMは大音量に。
そして照明と客席は真っ暗に。
真っ暗な大音量の中、
一体今日はどんな世界に誘われるのだろうと
客席は固唾を飲んでいる。

しばらくすると、大音量のBGMが突然鳴り止み、暗転されてた舞台が「バンッ!」と
いきなり煌々とした照明で照らし出される。
数十秒前の劇場とは全く違った世界に
一瞬にしてワープだ。

さぁ、始まる。
劇団員と私との勝負の時間が始まる。