ボッチとホッケー

尼崎にいる大学アイスホッケー同期に
会いに行く。
大学を卒業してからもう35年も経つけれど
4年間苦楽を共にした仲間はかけがえのない
心からの友。

当時の部活では下級生は練習中に水を
飲ませてもらえなかった。

練習の熱気でスケートリンク天井の
骨組みから水滴がポタリポタリと落ちる。
すると氷の上に穴が空きそこに親指ほどの
大きさの水溜りが何ヶ所かできる。
その水溜りを私たちは「ボッチ」と
呼んでいた。

どうしても喉が渇いてもうダメだとなると
そのボッチをめがけてわざと転ぶ。
転んで痛がるフリをしながら
先輩にバレないようにボッチに溜まった
僅かばかりの水を素早く啜(すす)るのだ。

僅か数センチのボッチの上にちょうど口が
来るようにいかにも練習中の転倒を
装い転ぶのは難しい。
更にボッチの上に辿り着いたとしても
中に溜まっているはずの僅かな水が
既に仲間によって飲み尽くされている
こともある。そんな時は
砂漠のオアシスに辿り着いたと思ったら
それが蜃気楼だった的にガッカリした。

例え大き目のボッチに辿り着いてもゆっくり
すすっていられない「いつまで倒れてるんだ!
早く立て!」と先輩からの怒号が飛んでくる。
そもそも錆びた天井の鉄骨から落ちてきた
水滴と何が入っているかわからない水溜りの
水を奪い合うように啜る異常。

誰が呼んだか「ボッチ」

上級生になると氷にわざと転んでボッチの
水を啜っている後輩たちに
「なにやってんだ早く立て〜!」
僕らはみんなボッチを啜って上手くなっていった。